双極症(躁うつ病)の治療薬・炭酸リチウム(リーマスなど)の電子添文で、「禁忌」から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」が削除されました。厚生労働省が2026年6月16日に使用上の注意の改訂を指示し、同じ日に、妊婦などへの使用に当たっての留意事項も通知しています。
禁忌ではなくなったものの、「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと」という注意は残っています。この記事では、何が変わったのか、なぜ変わったのか、薬局で確かめておきたいことをまとめます。
※2026年11月5日時点で、厚生労働省の通知(PMDA掲載)と薬事審議会の安全対策調査会の資料をもとにしています。処方を変えるかどうかは処方医の判断です。最新の情報は各製品の電子添文で確かめてください。
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この記事の要点
- 炭酸リチウムの「禁忌」から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」が削除された(2026年6月16日の改訂指示)
- 「妊婦」の項には、治療上やむを得ない場合を除き投与しないこと、周産期管理ができる施設と連携し、双極症の治療に詳しい医師の下で使うことが書かれた
- 妊婦に使う場合は、血清リチウム濃度を頻回に測る。新生児に新生児薬物離脱症候群やリチウム中毒があらわれることがある
- 「生殖能を有する者」の項が新設され、妊娠する可能性のある女性には催奇形性を十分に説明し、慎重に判断することになった
何が変わったのか
| 電子添文の項目 | 改訂前 | 改訂後 |
|---|---|---|
| 2. 禁忌 | 妊婦又は妊娠している可能性のある女性 | 削除 |
| 9.4 生殖能を有する者 | (なし) | 妊娠する可能性のある女性に使う場合は、催奇形性について十分に説明し、使用が適切か慎重に判断する。先天異常リスクの用量反応関係は明らかではない |
| 9.5 妊婦 | 投与しないこと | 治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。周産期管理ができる医療施設と連携し、双極症の治療の知識と経験があり、リスクを十分に管理・説明できる医師の下で、投与が適切と判断される患者のみに使う |
「9.5 妊婦」には、あわせて次の2点が書かれました。
- 妊娠により血清リチウム濃度が変わり、治療効果に影響が出る可能性があるため、妊婦に投与する場合は血清リチウム濃度を頻回に測り、患者さんの状態に十分注意する。妊娠末期では、分娩直前に血清リチウム濃度が異常に上がることがある
- 投与した妊婦から生まれた新生児に、新生児薬物離脱症候群やリチウム中毒があらわれることがある
出典:厚生労働省「炭酸リチウム製剤の使用にあたっての留意事項について」(医薬安発0616第3号、2026年6月16日)と別紙
なぜ禁忌が外されたのか
炭酸リチウムは、開発の時点で動物実験の催奇形性やヒトでの先天性心血管異常の増加が報告されていたことから、先発品の承認時から妊婦が禁忌とされていました。
今回の見直しは、日本精神神経学会が妊婦禁忌の解除を求める要望書を出したことがきっかけです。国立成育医療研究センター(妊娠と薬情報センター)のワーキンググループが検討し、PMDAが調査しました。薬事審議会の安全対策調査会(2026年3月25日)の資料では、主に次の点が挙げられています。
| 観点 | 資料での整理 |
|---|---|
| 動物試験 | 主にラットの試験成績からの評価で、非臨床の観点から催奇形リスクが低いと結論づけるには限界がある |
| ヒトでの報告 | ワーキンググループが抽出した文献20報で、心奇形リスク上昇の可能性が一定程度示唆されるが、結果にはばらつきがある |
| 国内の診療ガイド | 日本精神神経学会・日本産科婦人科学会の診療ガイド(2021)では、他剤が効果的でない場合を除き妊娠中は処方を避け、やむなく処方する場合も低用量にし、定期的な血中濃度測定と用量調整が提案されている |
| 海外の添付文書 | 米国、英国、カナダ、オーストラリアでは禁忌ではない。血清リチウム濃度の頻繁な観察と用量調節、新生児への影響について記載がある |
| 国内の実態 | 医療上の必要からやむを得ず投与を続ける妊婦がいる。一方、血中濃度の測定が十分に行われていない例も報告されている |
こうした点から、禁忌から外したうえで、精神科と周産期医療の医師が連携して使うよう注意喚起することが適切とされました。厚生労働省は関係学会に協力を依頼し、製造販売業者には患者さん向け・医療従事者向けの資材の作成を依頼するとしています。
出典:令和7年度第12回 薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 資料1-1「炭酸リチウムの「使用上の注意」の改訂について」(2026年3月25日)
薬局で確かめておきたいこと
- 監査システムの禁忌チェック:妊婦の禁忌チェックが改訂前の設定のままになっていないか、薬品マスタの更新を確かめる
- 妊娠の可能性がある女性への説明:妊娠を考えている、妊娠がわかったときは、自己判断で中止せず処方医に相談するよう伝える
- 血中濃度の測定:もともと定期的な血清リチウム濃度の測定が求められている薬。妊娠中は頻回の測定が求められていることもふまえ、検査の状況をお薬手帳などで確かめる
- 出産後の情報共有:新生児への影響が書かれたことをふまえ、必要に応じて産科・小児科との情報共有を処方医に提案する
同じ時期の安全性の改訂は、PPI・タケキャブに「低マグネシウム血症」追加の記事や、ナウゼリン・プリンペランに「重篤な不整脈」追加の記事でも紹介しています。
精神科の処方や妊娠中の相談に関われる職場は限られる
炭酸リチウムのように、血中濃度や妊娠の有無を確かめながら使う薬は、門前の診療科や薬局の体制によって関わり方が大きく変わります。精神科の処方や妊娠中の服薬相談に関わりたい場合は、転職のときに次の点も聞いてみましょう。
| 確かめること | 聞き方の例 |
|---|---|
| 処方の傾向 | 「精神科や産婦人科の処方箋はどのくらい来ますか」 |
| 検査値の確認 | 「血中濃度などの検査値を確かめられる仕組みはありますか」 |
| 改訂の情報共有 | 「禁忌の変更などは、どのように店舗に共有されますか」 |
よくある質問
Q. 妊娠中でもリーマスを飲んでよくなったのですか?
「禁忌」からは外れましたが、自由に使えるようになったわけではありません。改訂後の電子添文では、妊婦または妊娠している可能性のある女性には「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと」とされています。使う場合も、周産期管理ができる医療施設と連携し、双極症の治療に詳しい医師の下で、投与が適切と判断された患者さんに限られます。
Q. なぜ禁忌が外されたのですか?
日本精神神経学会から妊婦禁忌の解除を求める要望書が出され、国立成育医療研究センターのワーキンググループが検討しました。医療上の必要からやむを得ず妊娠中も使い続けている実態があること、海外の添付文書(米国、英国、カナダ、オーストラリア)では禁忌ではないことなどをふまえ、禁忌から外したうえで注意喚起を行うことが適切とされました。
Q. 催奇形性のリスクはなくなったのですか?
いいえ。電子添文には、動物実験で催奇形作用が、ヒトで心奇形の発現が報告されていると書かれています。ワーキンググループが集めた文献20報でも、心奇形のリスク上昇の可能性が一定程度示唆されています。妊娠する可能性のある女性に使うときは、催奇形性について十分に説明し、使用が適切か慎重に判断することが新たに求められました。
Q. 妊娠がわかったら、すぐに飲むのをやめたほうがいいですか?
自己判断で中止しないよう伝えましょう。続けるか、切り替えるかは、処方医が病状と妊娠の状況をふまえて判断します。改訂では、妊婦に投与する場合は血清リチウム濃度を頻回に測ることが求められています。
まとめ
- 炭酸リチウムの「禁忌」から妊婦が削除された(2026年6月16日の改訂指示)
- ただし、治療上やむを得ない場合を除き投与しないという注意は残り、周産期管理ができる施設との連携や、双極症の治療に詳しい医師の下での使用が求められる
- 妊婦に使う場合は血清リチウム濃度を頻回に測る。新生児への影響(新生児薬物離脱症候群、リチウム中毒)も書かれた
- 見直しは学会の要望を受けたもので、海外の添付文書では禁忌ではないことなどが考慮された
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