2024年4月、医師の時間外労働に上限規制が適用されました。 原則は年960時間、月100時間未満。これを超える必要がある医療機関は、都道府県知事から特例水準の指定を受けなければなりません。 同じ日から、建設業と自動車運転業務にも上限が入りました。5年間の猶予が終わり、3つの業種がいっせいに枠の中に入ったかたちです。 ここで考えたいのは、上限が入ったあとの話です。 医師が働けなくなった時間の分の仕事は、消えたわけではありません。
上限が入ると、仕事は消えずに移動します
時間に枠がはまると、その中に収める方法は3つしかありません。
人を増やすか、仕事そのものを減らすか、誰かに移すかです。
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医療の現場で現実的に進んだのは、3つ目でした。タスクシフトと呼ばれているものです。
医師でなくてもできる業務を、看護師や薬剤師、その他の職種へ移していく。制度としても後押しされてきました。
これ自体は、悪い話ではありません。専門性を活かす方向の変化です。
問題は、移した先で人が増えたのかどうかです。
受け皿になった側に、人は増えたでしょうか
仕事が移ってくるとき、たいてい説明は前向きです。
薬剤師の役割が広がる、専門性が評価される、活躍の場が増える。
どれも間違いではありません。
ただ、業務が一つ増えたときに、代わりに何かを外してもらった経験がどれくらいあるでしょうか。
外してもらえないまま増え続けると、それは役割の拡大ではなく、単なる負荷の移動です。
同じ言葉で説明されるので、外からは見分けがつきません。
数字で見ると、順番が逆になっています
医師の上限は、原則で年960時間です。特例水準の指定を受けた場合は年1,860時間まで認められます。
一方、上限規制の一般則は、原則で月45時間・年360時間。特別条項を結んだ場合でも年720時間などの枠がかかります。
薬剤師はこの一般則の側にいます。
つまり、制度の上では薬剤師のほうが厳しい枠の中にいることになります。
それなのに、時間の管理が話題になるのは医師の側ばかりだ、と感じたことはないでしょうか。
枠が厳しい側ほど、守られているかどうかを誰も確認していない、ということが起こりえます。
受け皿にされているだけの職場には、兆候があります
- ① 新しい業務が増えたとき、何を外すかの話が出たことがない
- ② 「専門性を活かす」という説明はあるが、人員や時間の手当てはない
- ③ 残業時間が、月単位で本人にも上司にも共有されていない
- ④ 36協定の内容を、社員が見たことがない
- ⑤ 病院や処方元からの依頼が増えても、体制の話にならない
④は今日にでも確認できます。事業場に備え付けて周知する義務があるものなので、見せてもらえないほうがおかしいです。
③が無いなら、会社は時間を管理していないということです。管理していないものは、守れません。
36協定は、いちばん確認しやすい書類です
時間の話をするときに、感覚だけで議論しても進みません。
根拠になる書類があります。36協定です。
これは、法定労働時間を超えて働かせるために会社と労働者側が結ぶ取り決めで、事業場ごとに作られます。
見るポイントは3つです。1か月と1年の上限が何時間になっているか。特別条項があるかどうか。そして、労働者側の代表が誰で、どうやって選ばれたか。
3つ目でつまずく職場は、少なくありません。知らないうちに代表にされていた、という話は珍しくないからです。
そして、この協定は事業場に備え付けて周知する義務があるものです。見せてもらえないほうが、本来はおかしいのです。
中身を確認したうえで、自分の残業時間と見比べてください。そこで初めて、話が具体的になります。
受け皿であり続けると、どうなるか
業務が増え続ける職場では、まず余裕がなくなります。
次に、増えた業務を丁寧にやる時間がなくなります。形だけ実施して記録を残す、という形に近づいていきます。
そうなると、せっかく移ってきた業務が経験として積み上がりません。件数はこなしているのに、中身が語れない状態になります。
数年後に転職しようとしたとき、これがそのまま条件に響きます。
「在宅もやっていました」と「在宅で何を判断してきたか説明できる」では、評価がまるで違うからです。
忙しさは、必ずしもキャリアになりません。
確かめる順番があります
STEP1 この1年で自分の業務に増えたものと、外れたものを書き出してください。外れたものがゼロなら、それが答えです。
STEP2 自分の残業時間を、直近3か月分そろえてください。会社が出してくれないなら、それも情報です。
STEP3 その働き方が業界の中でどのあたりなのかを確かめてください。ここは中にいるかぎり分かりません。
STEP1は今日できます。まずそこからで十分です。
体制を整えてから業務を受けた会社も、確かにあります
タスクシフトを受けるにあたって、先に人を増やした薬局や病院は実在します。
どちらの側の会社かは、外からは見えません。求人票に載るのは条件だけで、「制度が変わったときに何をした会社なのか」までは書かれないからです。
ただ、複数の薬局を見ているエージェントであれば、応募前に確認してもらえます。「今すぐ転職する」ではなく「今の条件が業界の中でどのあたりか知りたい」という相談の仕方で構いません。
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まとめ|移された仕事は、誰かの時間になっています
医師の労働時間に上限が入りました。建設業にも、ドライバーにも入りました。
枠がはまった以上、仕事はどこかへ移ります。
移された先で人が増えたのか、それとも今いる人の時間が削られただけなのか。
ここを説明できる会社と、できない会社があります。
あなたの職場は、どちらでしょうか。
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この記事の運営者:ぴろしき
調剤併設ドラッグストアで働く現役の管理薬剤師・薬局長。自身のパワハラ・転職経験をもとに、薬剤師が働きやすい環境を選ぶための情報を発信しています。詳しいプロフィールはこちら



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