厚生労働省が、治療などを目的に来日する外国人を受け入れる「医療インバウンド」について、来年度にも検証結果を取りまとめると報じられました(読売新聞オンライン、2026年11月3日)。受け入れ側の負担が増えるという懸念と、日本人の患者が減っても医療体制の維持につながるという期待の両方があり、実地調査を踏まえて課題を整理するとされています。
では、いまの病院は外国人患者をどのくらい受け入れていて、何に困っているのでしょうか。この記事では、報道の内容と、厚生労働省が2026年9月に公表した全国の病院への実態調査の結果を、薬剤師の目線で整理します。
※2026年11月4日時点で確認できた報道と、厚生労働省の公表資料をもとにしています。検証の結果はまだ出ていません。
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この記事の要点
- 厚労省は医療インバウンドの検証結果を来年度にも取りまとめる方針(報道)。「日本人患者に安定的に医療提供することが大前提」としている
- 医療目的で来日する外国人は、経産省によると年間推計2万〜3万人(報道)
- 実態調査では、回答した病院の54.6%で1か月間に外国人患者の受け入れがあった。多くは在留外国人だけの受け入れ
- 受診状況を把握していない病院は66.8%、医療コーディネーターを置く病院は2.8%
- 外国人患者の未収金は、受け入れのあった病院の15.7%が経験していた
報道の内容
- 厚労省は、医療インバウンドについて来年度にも検証結果を取りまとめる
- 想定しているのは、心臓手術やがん治療、人間ドックなどの医療や健康診断を目的に来日する外国人
- 経済産業省によると、日本への医療渡航は年間で推計2万〜3万人。美容医療などが人気のタイや韓国では、国が推進して年間50万人以上を受け入れている
- 厚労省は、受け入れ先進国の施設や国内の受け入れ病院を対象に、現地調査やヒアリングを行っている
- 職員の外国語対応の負担や、受け入れ過多による地域医療へのしわ寄せといった課題も検証する
- 政府内には、人口減少で国内の医療需要が減っても、医療機関の経営の安定や技術・人材の維持につながるとの見方がある
- 厚労省は「日本人患者に安定的に医療提供することが大前提だ」として、慎重に検討を進める考え
出典:読売新聞オンライン「「医療インバウンド」検証へ、病院の負担や地域医療へのしわ寄せなど…厚労省」(2026年11月3日)
病院の外国人患者の受け入れは、いまどうなっているか
厚生労働省は、全国のすべての病院などを対象にした「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」(令和7年度)の結果を、2026年9月8日に公表しています。病院は8,168施設が対象で、2025年9月の1か月間の受け入れ実績には5,461病院が回答しました。この調査が数える外国人患者は、在留外国人・訪日外国人旅行者・医療目的で来日する外国人の合計です。
受け入れの実績
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 1か月間に外国人患者の受け入れがあった病院 | 54.6%(2,980病院/5,461病院) |
| うち、在留外国人だけを受け入れた病院 | 2,218病院 |
| うち、訪日外国人(医療渡航を含む)だけを受け入れた病院 | 58病院 |
| うち、在留外国人と訪日外国人の両方を受け入れた病院 | 516病院 |
| 受け入れのあった病院で最も多かった患者数 | 1か月で10人以下(1,269病院) |
| 都道府県が選ぶ「拠点的な医療機関」での受け入れ | 87.3% |
報道の医療インバウンドは「医療目的で来日する外国人」の話です。一方、病院の窓口に来ている外国人患者の多くは、日本に住んでいる在留外国人です。ニュースを読むときは、この2つを分けて考えると分かりやすくなります。
受け入れの体制
| 項目 | 全体(5,745病院) |
|---|---|
| 自院の外国人患者の受診状況を把握していない | 66.8% |
| 受け入れ体制の現状把握・課題抽出をしていない | 85.6% |
| 外国人患者受入れ体制の整備方針がない | 87.7% |
| 外国人対応のマニュアルがない | 87.2% |
| 外国人患者受入れ医療コーディネーターを置いている | 2.8%(159病院) |
| 外国人患者の専門部署がある | 2.1%(123病院) |
外国人患者の受け入れについて第三者の認証を受けた病院では、受診状況の把握や整備方針、マニュアルをおよそ9割が整えていて、体制の差が大きいことが分かります。コーディネーターを置いている病院でも、約7割は兼任だけの体制で、兼任者の職種は事務職員が最も多くなっていました。
通訳と翻訳の整備
全国330の二次医療圏のうち、それぞれの体制がある病院を含む医療圏の割合は次のとおりです。
| 体制 | 二次医療圏の割合 |
|---|---|
| 医療通訳者を置いた病院がある | 47.9% |
| 電話医療通訳を使える病院がある | 73.6% |
| ビデオ医療通訳を使える病院がある | 41.2% |
| タブレット・スマートフォンなどを病院として導入している | 96.7% |
診療費と未収金
- 外国人患者の受け入れがあった病院の15.7%(469病院)が、外国人患者の未収金を経験していた
- 未収金のあった病院では、1か月あたり平均3.6件、総額の平均は58.3万円(中央値は約5.2万円)
- 未収金の70.9%は、1件あたり5万円以下だった
- 自由診療の価格は、9割以上の病院が診療報酬の点数表を使って計算。1点あたり10円を超える価格にしている病院は全体で1割超、外国人患者の受け入れの認証を受けた病院では約7割
出典:厚生労働省「令和7年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」について」(概要版PDF、2026年9月8日公表)
薬剤師の目線で見ておきたいこと
この実態調査は病院が対象で、薬局は含まれていません。それでも、外国人患者に薬を渡して、飲み方や注意点を説明する場面は、病院でも薬局でもあり得ます。調査で分かった病院の状況から、薬剤師が職場で確かめておきたいことを整理します。
| 確かめること | 理由 |
|---|---|
| 電話・ビデオの医療通訳や翻訳の端末を、服薬指導で使えるか | 通訳の体制は病院ごとに差が大きく、使える仕組みがあっても薬剤部や薬局で使えるとは限らない |
| 外国人患者への対応の手順やマニュアルがあるか | 外国人対応のマニュアルがない病院は87.2%だった |
| 自由診療や未収金について、窓口でどう対応するか決まっているか | 未収金を経験した病院は1割を超えている。お金の話をする場面で、薬剤師が一人で抱えないようにしたい |
| 外国人患者の担当や窓口となる部署・人がいるか | コーディネーターや専門部署がある病院は少ない |
検証の結果によっては、医療機関に求められる体制が変わる可能性もあります。外国語を使う仕事に関心がある方は、薬剤師が英語力を活かせる仕事・キャリアアップ完全ガイドや薬剤師が英語を活かすには?も参考にしてください。
転職や職場選びで確かめておきたいこと
外国人患者への対応は、職場の体制によって負担が大きく変わります。外国語を使う仕事をしたい場合も、負担を減らしたい場合も、求人票だけでは分かりにくい部分です。面接や見学では、次のように聞いてみましょう。
| 確かめること | 聞き方の例 |
|---|---|
| 外国人患者の来局・来院の状況 | 「外国人の患者さんは、どのくらい来られますか」 |
| 通訳・翻訳の仕組み | 「外国語での説明が必要なとき、通訳サービスや翻訳の端末は使えますか」 |
| 多言語の資料 | 「外国語の説明書や資料は用意されていますか」 |
| 困ったときの相談先 | 「外国人の患者さんの対応で困ったとき、誰に相談すればよいですか」 |
職場の体制は、見学で確かめるのがいちばんです。見学の申し込み方は薬局見学の申し込み方、業界の動きは薬剤師業界ニュース解説まとめで紹介しています。
よくある質問
Q. 医療インバウンドとは何ですか?
治療や健康診断などを目的に来日する外国人を、日本の医療機関が受け入れることです。報道では、心臓手術やがん治療、人間ドックなどが想定されています。
Q. 厚生労働省は何を検証するのですか?
報道によると、受け入れ先進国の施設や、外国人患者を受け入れている国内の病院への現地調査・ヒアリングを踏まえ、職員の外国語対応の負担や、受け入れ過多による地域医療へのしわ寄せなどの課題を検証し、来年度にも結果を取りまとめる方針です。
Q. 医療目的で来日する外国人はどのくらいいますか?
報道では、経済産業省によると年間で推計2万〜3万人とされています。タイや韓国では年間50万人以上を受け入れているとされています。
Q. 病院にはどのくらい外国人患者が来ていますか?
厚生労働省の実態調査では、回答した5,461病院の54.6%(2,980病院)で、2025年9月の1か月間に外国人患者の受け入れがありました。受け入れのあった病院の多くは、在留外国人だけを受け入れていました(2,218病院)。
Q. 薬剤師の仕事にも関係がありますか?
実態調査は病院が対象で、薬局は含まれていません。ただ、外国人患者に薬を渡して説明する場面は、病院でも薬局でもあり得ます。通訳サービスや翻訳の端末をどう使うか、職場の体制を確かめておくと安心です。
まとめ
- 厚労省は医療インバウンドの検証結果を来年度にも取りまとめる方針(報道)。受け入れ側の負担と地域医療へのしわ寄せも検証する
- 全国の病院の実態調査では、回答した病院の54.6%で1か月間に外国人患者の受け入れがあり、多くは在留外国人だった
- 受診状況の把握やマニュアル、コーディネーターなどの体制は、多くの病院でまだ整っていない
- 薬剤師は、通訳や翻訳の仕組み、対応の手順、相談先が職場にあるかを確かめておくと安心
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